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和歌山地方裁判所 昭和34年(わ)315号 判決 1960年8月08日

被告人 嶋紀海夫 外一名

主文

被告人嶋紀海夫を住居侵入、窃盗の罪につき懲役壱年に、被告人大江淳一を懲役壱年参月に処する。

被告人嶋紀海夫に対し強姦未遂の罪につき刑を免除する。

理由

(罪となるべき事実)

第一、被告人両名は共謀のうえ、窃盗の目的で昭和三五年七月一日午後九時頃、和歌山市真砂町一丁目一番地辻本玲子方表入口の施錠してある引戸を外して同所より屋内に侵入し、同家二階において、同人所有の女物衣類二二点、風呂敷三枚、煙草ピース五個時価(合計一六六、五〇〇円相当)及び日興証券マネービルカード二枚(額面合計三八、〇〇〇円)を窃取し

第二、被告人大江淳一は同月九日午前二時頃同市九番丁一番地同市水道局局長室において、同局局長里村瑛管理にかかる日立製扇風機一台時価一二、〇〇〇円相当)を窃取し

第三、被告人嶋紀海夫は和歌山県有田郡○○町大字○○○○○番地自動車修理、同運送業A方に修理工兼運転者として雇われていたところ、昭和三四年一一月一二日深夜右雇主の不在中、同人の妻B(当二七年)より同夜右A方の雇人の一人が飲酒の上仕事上の不満から右A方へ呶鳴り込んで来、更に暴れて来る不安があつたので、これが用心のため同家に宿泊方依頼を受け、同女より言われるままに同家六畳の同女の寝室内に同人の寝床と並べて敷かれた被告人の寝床に入り、就寝していたところ、翌一三日午前四時頃劣情を催し、同室には右Bの添寝する乳飲子一人であり、別室には女中が一人寝ているのみであつたことから、右Bを姦淫しようと決意し、やにわに同女を布団の上に押えつけながら左手をズロース内に突込む等の暴行を加え、よつて同女の抵抗を抑圧して強いて同女を姦淫しようとしたが、同女に哀願されて姦淫することを思い止り、以て右犯行を中止し

たものである。

(証拠の標目)(略)

(前科)

被告人嶋紀海夫は(イ)昭和三二年七月一六日東京地方裁判所で恐喝未遂罪により懲役一年執行猶予五年に、(ロ)同三三年一月一八日和歌山簡易裁判所で窃盗罪により懲役八月に、被告人大江淳一は同三二年八月五日当裁判所で住居侵入、強盗罪により懲役二年六月に処せられ、被告人嶋の前記(イ)の前科の執行猶予は同三三年五月一三日取消され、被告人両名は当時右各刑の執行を受け終つたものであつて右の事実はそれぞれ検察事務官作成の被告人等に対する前科調書によりこれを認める。

(法令の適用)

法律に照らすに、被告人両名の判示第一の所為中住居侵入の点は刑法第一三〇条罰金等臨時措置法第三条、第二条、刑法第六〇条に、窃盗の点は同法第二三五条第六〇条に、被告人大江の判示第二の所為は同法第二三五条に、被告人嶋の判示第三の所為は同法第一七七条前段第一七九条に該当するところ、判示第一の住居侵入と窃盗との間には手段結果の関係があるので、同法第五四条第一項後段第一〇条により重い窃盗罪の刑に従い、被告人両名には前示各前科があるから同法第五六条第一項、第五七条を適用し、前記窃盗の各罪につき累犯加重をなし、そして被告人両名の以上の罪はそれぞれ同法第四五条前段の併合罪であるが、被告人嶋については前記累犯の加重をした刑期範囲内において判示第一の罪につき同被告人を懲役一年に処し、被告人大江については同法第四七条本文第一〇条に則り犯情の重いと認められる判示第一の罪の刑に同法第一四条の制限内で併合罪の加重をなした刑期範囲内で、同被告人を懲役一年三月に処することとし、

なお被告人嶋の強姦未遂罪の情状について考察するに、苟も人妻であり、殊に年の若い人妻である被害者Bが夫の不在中同じく年の若い独身の被告人を自己の居宅に宿泊せしめるに、乳児のほか余人なき自分と同じ寝室に(なお同家屋内には女中部屋に女中一人就寝しているのみ)床を並べて就寝せしめるというが如きことは、甚だ不用意かつ非常識な行動であつて、同女において当夜他の使用人の乱暴を恐れたこと、被告人を宿泊させたのも右使用人の乱暴を避けんとするためであつたこと、被告人は自家の使用人であること、同女が飲食店も営み、かねて男ずれをしていて、被告人を宿泊させるにつき別段不安を感じなかつた事情があつたにせよ、若い男性をかかる状況下に置くことは、いわゆる「魔がさす」ということもあり、極めて危険、不適切な措置で、その者をして過ちを犯さしめるおそれなしとは保障し難いことと云わねばならない。

もとより被告人において雇主の妻を犯さんとしたことは不徳の謗を免れないが、以上の如く被害者自身に重大なる落度があり、これが本件犯罪の根本原因と見られ、又犯行の際の暴行の程度も左程強度のものとは云えず、幸い中止犯と認むべき案件であるから、被告人に刑を科するのは相当でないと考え、刑法第四三条後段により被告人に対し刑を免除することとする。

よつて主文のとおり判決する。

(裁判官 中田勝三 尾鼻輝次 大西浅雄)

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